お江戸ありんす草紙 シリーズ
お江戸ありんす草紙 概要
両親も分からぬまま、吉原で育てられた<おいち>。大好きな本を読むのが唯一の心の支え。
幼女から少女へと成長してきたおいちは、助兵衛と渾名される大嫌いな客を取らされることに。
おいちはとうとう、吉原から逃げ出すことを決める。
唯一の便りは、十年前に「助けてやる」と約束してくれた貸本屋の一人息子、半次。
ところが、ひょんなことから、おいちは自分とそっくりな顔をした姫様と入れ替わり、大名屋敷へ連れてこられてしまう。
おいちの運命は、そして、おいちと入れ替わってしまった姫様の行方やいかに?
時代小説が苦手な方も、ぜひ手に取ってみてください!
→登場人物紹介を追加しました!
お江戸ありんす草紙シリーズの書籍
お江戸ありんす草紙 瓜ふたつ(文庫本)

お江戸ありんす草紙 百両の秘本


この本ができるまで
歴史に疎い著者が、時代物に挑戦?!
社会科の勉強が大の苦手(記憶力が悪いため)だった私が、時代物を書くに至るまでには、色々なご縁がありました。
元はと言えば、時代物の女性作家が集まって、「吉原の短編集を書こう」などと息巻いていたのが事の始まり。
吉原かぁ、あまり暗いのは嫌だなぁ、と思いつつ、色々資料を調べていたのですが、
ひょんなご縁から、「小学館で時代物を書きませんか」とお声掛けいただいた
時代物で大人気の「居眠り磐音シリーズ」プロデュースされた米田さん。
ちなみに、女性作家の短編集がどうなったかといいますと、吉原とはぜんぜん違う企画になって、今仕込中でございます。
こちらもお楽しみに。
時代物の魅力って?
正直に書いてしまいますと、私は時代物はあまり読んだことがありませんでした。
というのも、「主のためなら!」と命を投げ出して闘っちゃう侍とか、
理不尽な命令にも「ははぁっ」と無条件に土下座してしまう身分社会とか、
身を尽くして男を立てて密かに哀しく死んでいく女性とか、
そういうの苦手だったのです。本当に。
ああ、こんな時代に生まれなくて良かったぁ~、と思うばかりなのです。
と、いいつつも、私がとても魅力を感じていた時代物もありました。
たとえば、学生の頃、本屋さんの自費出版コーナー(!)で見つけた「江戸かわら版屋異聞」という本。
何気なく手を取ったのですが、これが面白い。瓦版屋、今でいう新聞業界の人々を描いた本なのですが、当時の事情が良く分かるし、何より江戸っ子の生き生きした雰囲気が出ていて、夢中になって読みました。
素人の自費出版にしては上手すぎやしないか……とプロフィールを良く見れば、新聞社出身のちゃんとした作家の方でした。
ともあれ、私が心惹かれるのは、面白くておかしくて人情があって……という江戸の町人達の話。
私が書くのならこういう物語を書きたいなぁと思いました。
ノンストップ系時代小説にチャレンジ
せっかく資料など集めて吉原のことを調べたので、主人公は吉原で育った少女にしようかなぁと思いました。
狭い店に閉じ込められて、本の世界でしか外を知らず、いつの日かもっと広い世界に羽ばたいていくことを夢見ている女の子。
子供の頃、「赤毛のアン」やら「モモ」やら「オズの魔法使い」やら読んでいたせいか、空想好きな女の子を主人公にした物語というのは、身体にしみついているところがあります。
で、初めに試し書きしてみたのがこんな出だし。
格子の向こうを、燕がすいと飛んでいく。
軒から、雛のかしましい声が響いてくる。いずれ、あの雛達も、遠くへ巣立っていくのだろう。
ふうわりと流れこんでくる初夏の風を受けながらも、おいちは切なくため息をついた。
燕のように翼があれば、遠くへ飛んでいくこともできようものを。
いっそ、ずっと雛でいたならいい。
巣の中でぬくぬくと、母鳥の愛に包まれて、辛いことも醜いことも知らずに済むものを。
廓の朝は遅い。陽の出るか出ぬころにようやく後朝(きぬぎぬ)の別れを告げて、暁七つに客を見送る花魁は、朝四つになってようやく起き出してくる。
町の子らが寺子屋で机を並べ、おかっさんおっとつぁんも活気に満ちて働いているころだ。
まだ目覚めぬ廓の中で、おいちは陽の差し込む場所に座り込み、そっと合本を開く。
このところ、夜もおちおち眠れない。
この本だけが心の友だ。束の間でも、憂き世を忘れさせてくれる。
文章がこなれてませんが、時代小説ってこうやって季節感を出しながら始まるのかなあ、と考えておそるおそる書いた風が透けて見えますね。
いやしかし、こんなまどろっこし出だしでは、眠くなってしまいそうです(私が)。
ていうか、燕の雛が巣立つのは初夏じゃないし(死亡)。
いろいろ考えた結果、結局、脱出シーンからスタートするサスペンス調の出だしに書き換えました。
デビュー作、Project SEVENの頃から培ってきた七瀬晶の本領発揮、「<ノンストップ系>時代小説」の始まりです。
江戸時代の本屋さんって面白い!!
とはいえ、勢いだけで時代小説が書けるほど世の中甘くありません。
とくに、私のような歴史音痴な人間が時代物を書こうとすると、勉強勉強また勉強であります。
古地図に始まり、各種資料やら時代小説やらを読み漁り、映画を見たり取材に行ったり、はたまた変体仮名を勉強して黄表紙の原文と睨めっこしてみたりと。
いやいや大変、苦しい、でも面白い!!
なんだ、こんなに江戸時代って面白かったのかと。もっと早くに知っていればもうちょっと歴史の成績が上がってたのではなかったかと。
敏腕プロデューサーである蔦屋のかっこいいこと。山東京伝の見ているだけで笑っちゃいそうな黄表紙や、心にじわっとくる洒落本の魅力的なこと。
えっ、あの面白いけど下品な東海道中膝栗毛を書いた十返舎一九って武士の出身だったの?
とか、
子供の頃何気なく読み流していた南総里見八犬伝の原文ってこんなにかっこいいの?
とか、歴史に詳しい人からは鼻で笑われそうな「目から鱗」を山ほど体験。
遠い昔の人達が急に身近に思えてきて、「一九先生、ここで出させてもらっていいですかね?」とか、「馬琴先生、こんな風に書いちゃっていいですかね? すいません、すいません」とか、脳内でお許しを乞いながら、必死で書き進めました。
時代小説を普段読んでいない人こそ読んでほしい
町人の話と書きましたが、江戸時代は結局のところ武士の文化なので、お侍さんが結構出てまいります。
馬琴先生も、もともとお武家様ですしね。。。
かっこいいお侍さんも出てきますですよ。切った張ったの立ち回りも出てまいります。(編集者さんのたっての希望で……)
何やらだいぶ本筋から離れてしまいましたが、お風呂屋さんとか、何気ない町の景色とか、普段時代小説を読まない人達にも、タイムトリップしたような感じで楽しんでもらえたらなぁと思いながら書きました。
時代物が苦手だな~と思っている方にも、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです!