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音楽プロデューサー 谷川晃(指揮、アレンジ、テノール)


  • トルコ行進曲に革命のエチュードですか! いきなり難易度の高いところにいきましたね。歌も歌われますが、声楽はどうやって?

  • 実は小学校の頃からそれなりに声楽の声が出ていたんです。4~5年で声変わりした時にはテノールの声になっていて。 全体合唱の中でも目立ってやろうと思っていたので大きい声を出す訓練していたので。 声楽を習ったのは、高校になってからですね。

  • 指揮や編曲はどこで学ばれたのでしょう?

  • 編曲・作曲のベースはヤマハで習っていましたが、指揮を始めたのは高校になってからですね。 音楽部だったのでそれがきっかけで歌と指揮を始めました。指揮者協会の先生に習っていました。
    器楽も声楽も両方好きで、指揮者のポジションにいることで色々な音楽が作れると考えていました。 それぞれ相反するものだと思っていましたが、声と楽器がハモること、お互いを補完できることが分かりました。

  • 何がきっかけでSerendipity構想を思いついたんでしょうか?

  • いろんな音楽をごちゃまぜにして新しいものができるんじゃないか? と考えたのがきっかけです。 ジャンルを変えたり、違う分野の人も呼んだりしたら、と考えて。 たとえば、クラシックでいうと、ロマン派だからこう、バロックだからこう、というのでなく、ジャズと組み合わせたらどうなる? とか、固定概念と違うものをかけ合わせることで、新しいものが生まれるので、はと思っていました。

  • Serendipity構想事業は、この先10年かけて、その時代に合った異業種、他キャリアの人材をかけ合わせて発展していきたい、とのことですが、前から温めていた構想なんでしょうか?

  • 音楽に向きあった時にいろいろな解釈を考えますが、10年ぐらい前だったか、ピアノと声楽曲にあえて楽器を加えることで、詩の世界観、解釈をより伝えやすくなることが分かったんです。
    そこで、音楽を、違う楽器で表現すると、分かりやすく伝わるんじゃないか? と考えました。
    たとえば、ピアノと歌だけのシューマンの歌曲にフルートを入れるとか。クラシックにドラムを入れたらもっと分かりやすくなるのかな、とか。
    分かりやすく伝わるというのは音楽の基本だと思っています。
    これまでコンサートで、そういった器楽と声楽をかけ合わせることはしていましたが、今回のようにあらゆるジャンル、クラシック・ジャズ・声楽・アンサンブル・フルート・ホルンなどかけ合わせたものは初挑戦です。
    音楽のとの向き合い方が変わってきた結果、今回の作家とのコラボといった発想にもつながってきたのだと思います。

  • 若手芸術家の活躍の場をたくさん作っていくことで、世の中に認知してもらう機会を増やしたい、とのお話でしたが、芸術家や音楽家を守っていかなければという想いはどこから生まれたんでしょうか?

  • 自分も若手のころオペラをやってましたが、20代の頃ってどうしても、主役なんかはまずなくて、なんとか出番の少ない役や合唱で出演させてもらうのがやっと、といった感じだったんです。
    現在も、同じような悩みが、若手や教育現場から聞こえてきます。
    若手にもいろいろな演奏会で歌う機会を提供したい、聴いてもらえば知ってもらえるし、ファンもできる、と考えました。

  • 今回の演奏会でも、若手の人のそれぞれの見せ場で、素敵な声が聴けますよね。
    谷川さんは、芸術文化における若手・中堅・ベテランと縦のつながり(関係性の深化)だけでなく、芸術の広がり(技の探索)も視野に入れた取り組みにしたいとのこと。
    出会いの場を提供したい、ということも言われていましたが。

  • 今回の参加者には、ビジネスマンもいます。
    音楽の人はビジネスに疎いんです。自分達が生きるための術を学ぶ必要もある。マネジメント的な観点をビジネスマンから学んでもらえたら、という気持ちもありました。

  • コロナ禍の影響もありますか?

  • おおいにありますね。2020年になってからは発表の機会も、そもそも練習する場もなくなりました。周りでも仕事が急になくなってしまっていましたが、やり方を変化させながらようやく活動の場が増えてきたなと実感しています。

  • 第二部の物語を演出する中で、何に心がけましたか?

  • 自分の知っている曲を並べず、あらすじを読み込んで、それにあわせて音楽を選んでいった、というのが大きいですね。
    自分の経験値を落とし込むのでなはなく、脚本に一番合う曲を選んでいきました。そのために、ネットで曲を聴いたり、海外の出版社の楽譜を探したり、知らない曲を多く取り入れていきました。

  • 音楽会だとよく知られたメジャーな曲を演奏することが多いと思うのですが、あえて珍しい曲にチャレンジされてますよね。その心は?

  • はい、あえてのチャレンジですね。
    音楽通の方でも、物語の中で聞いたことのない曲が流れてた、と、取り合わせの妙を楽しんでほしいです。
    それと、もともとあるストーリーに音楽をつけることはありますが、今回はコンサートのために物語から書き下ろしてもらっています。これは初めての試みではないかと思っています。

  • 物語の中で、主人公・響香は、コロナ禍により挫折を音楽活動を進めることができなくなり、無力感を味わっています。
    音楽活動で挫折を味わったことがありますか? エピソードを教えてください。

  • 特殊なマインドかもしれませんが、挫折があるいからこそ次があると考えるタイプです。失敗したら受け止めはするけど、次に向けてどうしたらいいかなと考えます。

  • 生まれつき前向きな性格ですか?

  • そうですね。
    ピアノを弾くうえでの限界値はあって、まあ、それを挫折と言えば言ってもいいけれど・・・

  • それを挫折ととらえずに、編曲や指揮の道に進まれたわけですね。
    他にはどんな楽器を弾かれているんですか?

  • ドラムの他、バイオリン、トロンボーンなども演奏したことあります。

  • 指揮者として、いろいろな楽器が弾けるというのは大事ですよね。

  • 自分の強みは、色々な音を聞いて覚えて、頭の中でシミュレーションできるところかなと思っています。
    今回も、練習が大人数(25名)で全員そろえないことも多いですが、パートが足りてなくても想像しながら指揮しています。ホールの響きも想像しながら、頭の中で音を鳴らしています。

  • プロの創作料理人みたいですね! 野菜の味を確かめて、出来上がりの味を想像しながら新しい料理を生み出す、みたいな。

  • そうですね(笑)

  • 練習ではいつも参加者が友好的なムードで取り組んでいるのが印象的です。
    参加者をまとめあげるにあたって気をつけていることは?

  • 穏やかに音楽を一緒に作り上げるように気をつけています。優雅に、おいしいロイヤルミルクティーでも飲みながら、くつろいで音楽をやっているような。
    クラシックは指示待ち音楽になりがちなんです。
    音楽・歌詞を見てひとりひとりが感じて歌ったり演奏したりしたほうが、いいものが生まれるはずだと、十数年前に気づきました。
    それまでは、ハウトゥーばかり言って、自分の考えをごり押ししていました。
    指揮者の世界観を押し付けると、想像しやすい曲、型にはまったしっかりした音楽になります。それはそれでいいけれど、どこにでもありそうな音楽になるんです。
    みんながプロアクティブにやっていくと全く違います。それぞれがいろいろなことを感じながら演奏しているので、のびのびしている。ライブな世界で、弾くたびに変わっていく。
    ほんわかした雰囲気で進めながら、ああじゃないか、こうじゃないか、とメンバーが意見を出し合っていく。

  • アジャイル開発の考え方に似ていると言われてましたが、一人一人の自発性を大切にしているんですね。
    (注:アジャイル開発=あらかじめ仕様を固めて計画に従って開発するのでなく、発注者と開発者がコミュニケーションを活発に取ることで、仕様の変化に柔軟に対応できる開発方式)

  • そうなんです。なので言いたいことはあっても、自分がやりたいことは押さえて、出てきた提案を積極的に取り入れて演奏をやってみることを大切にしています。 指揮者も自分の描く音楽の世界に近づけようとしていきますが、出演者や関係者と共創していくという観点を忘れてはダメということですね。

  • 自由にのびのびとやってもらったことで、刺激を受けたりしたことはありますか?

  • 参加してるメンバーが凄いと感じました。
    自分はヒントしか言わないんですが、たとえば、これは複数の違う曲が組み合わさってできてます、などと言っただけで、曲想が変わるんですよね。
    昔のやり方なら、一曲目はこう、二曲目はこう、とか、讃美歌だからレガートでとかマルガートで、とか指示していたところです。
    基礎がある人にだからこそできる話でもありますが。
    その分、いい音楽が引きだせる言葉を考えて伝えていますね。

  • たとえば?

  • 弦楽カルテットに、オペラ歌手にラブを伝えるため「ラブな音」を出してください伝えたら、本当にすごい「ラブ」が飛んできました!

  • メンバーから、何かこんなアドバイスを取り入れた、という例もありますか?

  • リベルタンゴなんかは、まさにみんなが意見を言って作り上げていますね。
    大幅な変更を2回やっているし、今楽譜はリリース5ですか。16小節増やしたしたので、どんなアレンジを入れるか悩みました(笑)
    他にも、こんな打楽器入れたらどう、とか、トランペット入ってもいい? とか、ここはスラーじゃなくしたい、とか、皆さんからいろいろな意見をもらってますね。

  • Srendiptity Oneのテーマについて教えてください。

  • 以下5つをポイントとしています。
    1 世界情勢が不安定な昨今、誰もが穏やかに平和な日常が過ごせるようにと『祈り』をテーマにしています
    2 コロナ禍であらゆる文化的事業が中止、延期または縮小を余儀なくされる世の中において、取り分け才能ある若い音楽家がリアル演奏会の機会を失ってしまうことを危惧し、彼ら彼女らの活動の場を一つでも多く創っていきます
    3 若い音楽家たちには今後の事業企画に参考にしてもらえるよう演奏会立案、音楽プロデュース並びにプロジェクトマネジメントも含めた総合的な知見を伝承します
    4 あらゆる分野の芸術文化的活動が今後も世界の人々の生活や生きる意味などを支えていくことを願って、今後も同様の活動を続けていきます
    5 観客を巻き込んだ企画(コンテンツ配信、出演者とのリアル演奏会での交流など)はもちろん出演者同士の共創による新たな価値も創造し発信していきます

  • Serendipity Oneに期待することはなんですか?

  • Serendipity構想元年として、新たな芸術表現の幕開けとしていきたいです。

  • 最後に、公演への意気込みを聞かせてください。

  • 出演者の良さがしっかり伝わるように、そして多くのお客様に幸せな気持ちになっていただけるようにがんばります。

  • 練習を聴いていても、一人一人の個性の生きた音楽会になると感じています! ありがとうございました。
     

  • ジャズ音楽家 高野玲(ドラムス、パーカッション)

    ピアニスト 廣田響子(ピアノ、ナレーター)

    河野 大樹山下 裕賀Burg MännerChor 関口 直樹(テノール)DTBTカルテット 小西 達也(バイオリン)